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≪Making of "RAVEL" レコーディング・エピソード≫

 次のCDはラヴェルでいこう、という話は2〜3年前から音楽三昧の中で持ちあがっていた。1998年はラヴェルの著作権が切れる年でもあり、それまで許可が下りなかった編曲も自由に行うことができるようになり、今まで著作権の縛りで不可能だったCD化も制限がなくなる。

 音楽三昧のラヴェルのレパートリーは時間にして約90分ほどあった。この中からどうやってCD1枚に入る70数分に絞り込むか? どれを削るか。どれも削りたくない、削れない。そこで出た結論は至極単純だった。「2枚作ってしまおう!」。何ヶ月か後にジャケット・コンセプトの揃った双子のCDが目の前に置かれている、そうイメージした瞬間、一気に拍車がかかった。

 録音はコンサートと違いCD盤面の「音」に全てを託さねばならない。今までも音楽三昧はレコーディングの際の『音』には特別のこだわりを持ってきた。そのお陰で前作は年間ベスト3録音(邦人ではトップ)にも選定された。今回は前作以上に更に「音を録る」ということにトコトンこだわることにした。自分の頭の中で鳴っている理想の響にどれだけ近づけることができるかに。

 機材を選び、現場でマイクの位置を決める、録音にとって心臓部ともいえる仕事を担うエンジニアは、ある1枚のCDの『音』を通して出会った伊豫部富治さんにお願いすることにした。楽器がどう鳴りたがっているか、音の鳴っている空間のどこにマイクを置けばいいかが“点”で見えるような名人。

 次の問題は録音場所の選択。最も音楽三昧を生かしてくれる空間、それを伊豫部さんと探すことにした。ノバホール・ホワイエという最高の空間で作られる音楽三昧の音のイメージに遜色ない響きを持つホール、それが条件だった。濁りのない、美しい切れ長のリバーブが印象的な秋川キララホールに初めて入った時、「ここしかない」と伊豫部さんと意見が一致した。

 伊豫部さんのことを強く印象づけられたエピソード。レコーディングは4月2日と5月のゴールデンウィークの2回に分けて行われたが、Part2初日、伊豫部さんに「4月に録音したものを参考にしますか?」と尋ねると、ニコッとしてから「いいや、聞きません」とキッパリ。同じディスクにのせるものだから、別日程で録音したものと比較しながら出来るだけ同じように音作りするものと思っていたら「どうせ同じものにはなりません。その日その日で音は作り直すしかないんです。」 一流の料理人が、何gだとか小匙何杯だとか言わず舌で覚えているものだけを頼りに勘でものを作っていくのと同じ、そんな本物の職人の言葉。この言葉で、その日の録音はスタートし、全てこのような「阿吽の呼吸」で録音は進んでいった。

 編集とマスタリングは屈指のスペシャリストSONYの田中三一さんにお願いした。伊豫部さんとメンバーも信濃町スタジオに立会い一つ一つ確認しながら作業は進められた。

 そうやって完成した音楽三昧のNew Albumが10月、手元に届いた。あたかも最初から2枚でなければ意味がなかったようなたたずまいで。このアルバムは前作以上の感激を私たちにもたらしてくれたのは言うまでもない。そして、それを今、皆様にお届けできる喜びは何にも代え難い。 (田中潤一)